2009/3/15 2nd stage 第75.かもな夜 「道化と愚弄」
                          クラウン オーギュスト

どんなにその道が険しくても、僕は歩き続けて生きたい。
この、みんなと一緒に。


ミランダと一緒に‥

なのに

ノアの箱舟を使ってアジア支部から戻ってからこっち、ゆっくりとミランダと話せない。
「そりゃ、やっと一段落したんだけどさ」
厳しい戦いだったと思う。だから親密度が増すんだけど。
でも、僕も苦しい戦いで

『僕の知らない時間を聞きたいし、僕の事も聞いて欲しいんだ』
アレンは自分の両手を交互に見て、拳を握った。
慰めあって、励ましあって
『それがこの腕の中にあったらどんなに良いか‥』
今もミランダは天青楼の3人と談笑している。
「ラビまで来た。」
正確にはブックマンがミランダに何事か話しかけ、ラビがその横で聞いているわけだけが。
「腹が立つ。」
ティエドール元帥が加われば、マリといつもは離れている神田までが合流して‥
『なんの話しだろう?リナリーのイノセンス?それとも発動をし続けてるミランダさんの?』
1番に駆け寄ってきてくれる淡い期待に
『やっと一緒に戦えるって、色々話したいのに‥ミランダさんは違うのかな』
アレンは押し潰されていた。
「ミランダ。」
すぐ横からリナリーの声がして、アレンは現実に戻る。
「リナリー?僕にできることなら」
「無理。」
「へ?」
間髪居れずに返る返事。そこへミランダが駆け寄ってくる。
「どうしたの?リナリーちゃん。あぁ、貴女の足にリカバリーが効けば‥」
「ううん。今で充分よ。それよりミランダこそ、イノセンスを使い続けてくれてて、大丈夫?」
「あたしは、、、これぐらいしかできないもの。」
「そんな事ないよ、ミランダ。」
これが百合か!?
手を取り合う姿に、アレンは更に落ち込む。
『いや、今こそチャンスだ。』
アレンが割って入るより早く、誰かがミランダを引っ張った。
次の瞬間黒い紋章がリナリーの足元に現れ、リナリーを飲み込んでいく。
「しまった‥え?」
消える前に掴まれた腕。
アレンを善い人だと思っているミランダの前で振り払えるはずも無く、アレンは素早く視線を走らせた。
「そう来るとは思ったけど。」
アレンに掴まれたラビは予想していたようで、ついでとばかりに神田を引っ張る。
「貴様!」
脇を白い線が走り、神田は口をつぐんだ。
クラウンベルトは天青楼の生き残りのうち、チャオジーの胴に巻きつくとそのまま引き摺っていく。
「なるほど。側にいる割合が高かったな。ただでは転ばんモヤシめ」
腕を組んだまま憮然と神田は飲み込まれていく。
ミランダさんを引き離したヤツはドイツだーっそれは僕の役目だーッ
最後に、アレンの叫びを吐き出して、黒い紋章は消えた。
口を押さえ、今は何も無い地面を見つめるミランダの背後で、残された者達は親指を立てた。



2008/11/3 2nd stage 第73.かもな夜 めるてぃきす

「右手を人の為に」
「左手を‥アクマの為に‥?」
「気持ち悪いですか?」
ミランダは首を振るとアレンの左手を取った。
「アレン君はいろんな人への思いからできているのね。」
「え?」
ミランダの右手が、アレンの左こめかみに触れる。
その冷たさは、篤さとなってアレンの鼓動を打つ。
「アレン君の左目は、お父さんの気持ち‥」
「これは、、、マナの呪い‥」
「お父さんの、アレン君が生きていけるように願うお呪い。」
より黒白の世界へ それは、アクマの魂を助け人の命を守る世界
「団服は、皆がアレン君の無事を願う気持ち。そしてテイムキャンピーは‥」
黄金色の物体は、威張ったようにアレンの頭に乗った。
「クロス元帥がアレン君を見守る気持ち。」
「それはちょっと違うと‥」
ミランダがきょとんとしたので、アレンは曖昧に首を振った。
「そうですね。うん、僕がアクマも人も守りたいように、僕も皆に守られて歩けるんだ。」
アレンはそう言うと、ミランダの顔を寄せた。
「で、ミランダさんは僕のどこなんです?」
触れそうな距離で唇を動かす。アレンは、ミランダが自らキスできるように顔ではなく、その両手を握る。
「わたしは‥」
ミランダがしゃべると、わずかに唇が触れ合う。
「もちろん、アレン君が許す限り、その時間の中でアレン君を想うわ。」
「え?」
ミランダが背筋を伸ばすと、冷たい空気の流れが感じられるような、僅かなのに遠い距離が生まれる。その、無意識の距離にアレンは悲鳴を上げた。
「ええ?」
「アレン君が望んでくれる時の中、ずっと、、、アレン君を想い続けるわ。」
ニッコリ笑われ、アレンは泣き笑いで肩を落とした。
呪いと呪いは一緒だ。」
っていうか、状況分ってます?」
遅刻しておいて、いい度胸よね。」

闘わんかい、戦闘中だぞ!

「やっとれんさっ、行ったれ、劫火灰燼 火判。」
「わわっ、江戸は八百八町っちょ。火がついたら‥」
「右に同じ、円舞・霧風。」
「リナリーはイノセンスが使えるようになったであるか。良かった良かった。」
「良かないっちょ!火が、風でぇ‥」

火事と喧嘩は江戸の華のようである。



2008/10/26 2nd stage題名-第60.465話-

「本当に致命傷は負ってない?」
江戸に向かう船の中、今、わたしにできる事は時間を吸い取る事だけ
みせかけの、復元
【傷付いた僕らの時間を吸い出してくれたんです。ありがとう、ミランダさん。】
そう言ってくれたのに
『発動を止め傷の戻ったアレン君やリナリーちゃんに、わたしは何一つできなかった‥』
「出血しそうなところは無い?」
『発動を止める前の今なら、少しは怪我の対処ができる』
だってわたし、手紙に書いたもの
今度会う時は、エクソシストとしてお役に立ちますって
何もせず何もできず、ただおろおろするだけじゃなく‥ほんの少しでもいいから、自分にできる精一杯を
「そんな事、どうだっていーだろうがっ。」
「!」
‥そうね‥傷の手当なんて、それはエクソシストとしての仕事じゃない
アクマと闘ったり、皆を守りきったり‥そんなチカラ、わたしには無い
所詮わたしは‥
【ミランダさんのおかげで僕らは今ここに居られるんです。】
アレン君‥
『そうよ、約束したんだわ。諦めちゃだめ。ダメよ!』
引き止めたラビ君の手は暖かい。生きているから、温かい。生きて‥
リナリーが心配じゃねぇのかっ。」
「!」
「アイツはお前等の仲間だろ!?
振り払われた手が、急速に冷えてく。ラビ君の体温に‥手が届かなくな‥
【ミランダがイノセンスを発動してくれなければ、私達はあの空間から出られなかった。生きていなかったわ。】
ありがとう、ミランダ
『諦めない、諦めない、諦めない!‥馬鹿な想像で自分に何か、わずかでもできる時間を費やしてはダメ!今、できる事をしないで、どうしてリナリーちゃんを迎えられるの?しっかりしろ、ミランダ!あなたは、エクソシストに、アレン君やリナリーちゃんの仲間になったんでしょ!』
「あなたも仲間でしょ!?違うの!?」
滑稽なほど声が震える。だけど、今ラビ君を行かせて何かあったら、わたし、アレン君やリナリーちゃんや、教団で教えてくれた皆に合わせる顔が無い。
ちっ。」
飛んでいく、飛んで行けるラビ君
『ラビ君‥リナリーちゃん、、、』
羨ましいと思うのはダメな私
『また失業かも』
アレン君はきっと呆れ顔で、リナリーちゃんはきっと叱ってくれて、それで迎えてくれて‥
『無事で!お願い、無事で戻って来て!リナリーちゃん、ラビ君‥アレン君っ』
ラビ君の言葉に項垂れた船員さん達が、気遣ってわたしの肩を叩いた。
「大丈夫、日本まで‥わたし、頑張りますから‥」
睡眠不足と発動から来る疲労で体温が低下し、潮風を温かいと感じる手で、それでも!わたしは祈り続ける。


「眠い。続きは起きてからだ。」
壁に戻ろうとするフォーの前に、アレンは回りこんだ。手を掴もうとしても空振りする事は経験済みだからだ。
え〜っ、僕は大丈夫ですからやりましょうよ。」
こっちが眠いんだ!だいたい、進歩してねぇのに、ガムシャラやっても仕方ねぇだろ?」
「数打てば当たりますよ。」
「当たりそうな手ごたえは?」
相手をしそうも無いフォーに代わって、バクが階上から問いかけた。
「全然。」
死ね。
死んでられません!こんな事してるうちも、ミランダさんは‥」
「ふたことめにはミランダ、ミランダって、そいつがナンなんだ?」
漫才を眺めているようだと思いつつ、バクは聞き返した。
僕の恋人です!
「夢、いいから‥」
「ミランダさん、イノセンスをずっと発動してるんしょ!?」
「日本へ行く船を守るわけだからな。」
「ずっとですよ!?眠りもせず」
「体力は消耗するだろうな。」
「病気になっちゃいますよ!?ミランダさん、手抜きなんて器用なことできないから。」
「それも仕方ないな。お前達はアクマと戦える。言い換えればお前のように傷付き、死ぬ確率も高い。それができないエクソシストはバックアップに全力を注ぐ。それで死んでも」
運動能力は戻った、というより以前より片手が使えない分冴たようだと、バクが頭で認識する前にアレンは階上にいたバクの元まで跳んだ。バクの胸倉が引っ張られアレンの顔が目前まで迫る。
仕方なくなんてありませんよ僕も、ミランダさんも頑張ってるんです。僕が安心して頑張れるのはミランダさんのバックアップのおかげだし、だからこそ、護ってあげなくちゃいけないんです。」
ここで、”アクマと闘う為に守るのか?”なんて突っ込んだらうんざりするほど長くなると、アレンがアジア支部で目覚めてわずか半時で学んだバクは、
「だったら自己管理をしっかりしてイノセンスを発動させて見せるんだな。」
と、カッコ良く決めた。
       つもりだったが
それでね、ミランダさんを護る僕の背の広さにミランダさんは感激して”アレン君ありがとう”ってちゅ〜なんて‥
バクが救いの目で見渡せば既にフォーの姿は無く
「頼む、寝かせてくれ‥」
そうです!ミランダさんを寝かせてあげたいんです。きっと寝不足で目の下に隈とかできて、ますます細くなって抱き心地とか‥」
「‥ウォーカー、寝かせ‥」
「いえ、細くってもいいんですけどね。ミランダさん、僕より大きかったから‥そのミランダさんがすっぽりと
てェ〜〜〜
end



2008/10/19 2nd stage第56.4夜 消失と再会

月がなんて大きく見えるんだろう
       !
  いやだ      
くるな
       僕はまだ   
                           
まだ

ぴりぴりした雰囲気の中で、ミランダは転んだ。
「ご、ごめんなさい。き・緊張してて‥」
大丈夫ですよ、ミランダさん
合流すると思っていた声は、ここには無い。
「リナリーちゃん‥」
笑顔で迎えてくれる彼女も、心ここに無く
以前手紙をあつらえた赤毛の彼は、リナリーだけを見ているようだった。
「わ、わたし、、、、余計な事を?」
リカバリーを発動させたものの、歓迎の雰囲気は微塵も無く、ミランダはいたたまれずに海に飛び込んだ。
『わたしは‥上手くやれるかしら‥?』
ここには、私の居場所なんて無くて‥?
叫びだしそうになる唇をミランダは押さえ、おずおずとリナリーを見た。
膝を抱えるように、座るリナリー。
「立ち上がるさ!」
叫ぶ青年の後ろからミランダはリナリーに祈る。
大丈夫。今度はわたしがまもるからね。

「え?」
「お前のイノセンスは死んでいないと言ったんだ。」
「いえ、そこじゃなく‥」
アレンはバクの後ろに立っているウォンへ詰め寄った。
「本部からの応援が誰かってトコです。」
「応援?あ〜、よく転んで海に飛び込んだ‥」
「海に飛び込んだって!?大丈夫だったですか?」
髭をつかまれ、ウォンはアレンの右手を掴んだ。
「イタイ、イタイ〜。大丈夫だったから離してくれ、ラビが海に飛び込んで助けたから」
「ラビ‥美味しいところを‥」
「ウォーカー?助かったのだからいいだろう。それよりもイノセンスが‥」
あ〜も〜っ、ど〜して僕と入れ替わりなんだーっミランダさーんっ
「おい、ウォーカー、聞いてるのか?」
「そうだ!ミランダさんは僕の事聞きましたか?心配してる?それとも」
「痛い、痛い〜髭を引っ張るな〜っ」
「おい、ウォーカー、貴様、今の現状を分ってるのかっ」
ウォンに掴みかかってるアレンをバクは羽交い絞めして
「なぁ‥左手、生えてんじゃないの?ひげ、掴んでるし?」
フォーは頭の後ろで手を組んだ。
「なに?」
バクが見れば確かにアレンの左手はイノセンスを発動している。
「おい、ウォーカーお前‥」
そっかぁ、ミランダさん僕の事を‥v
きゃっきゃっと染めた頬を両手で押さえてアレンは、微笑んだ。
そうだ!こうしちゃいられない!早く治して追いつかなきゃ。
そういったアレンの左手からはイノセンスが粒子となって消えていき‥
あーっ馬鹿野郎。イノセンスが‥」
「え?イノセンスがどうかしました?」

貴様、、、もう一回死んで来いーっ

再会はいつ?
え〜妄想ですとも!(笑)

2008/04/6 The spring-heralding gale(飴トリオ)

真っ黒マニキュア塗ってる
目の下隈が踊ってる
彼女は彼女は可愛い、10歳(とぉ)上のお姉さん
何をやっても上手くいかない 不器用だけど 好きです
L・O・V・E 投げキッス
不幸体質で似た者な 僕の事 好きですか?

「‥‥‥アレン?」
「‥‥‥何コレ‥」
無理やり取り上げ覗き込んだ便箋から顔を上げ、ラビとリナリーは書き主のアレンを見た。
「皆に見せる為に書いた訳じゃなですが」
アレンはコホンと咳をすると、頬を赤らめて渡したい相手を見ながら言った。
「”10歳上のお姉さん”副題は”僕の事、好きですか?”」
にっこりとアレンに微笑まれ、手渡された手紙をミランダを見た。
「分ったわ!これ、新しい大道芸ね!?」
合点がいったとばかりに手を打つと、ミランダは顔を輝かせた。
「「‥は?」」
ラブレターには見えないよね〜と言おうとしたリナリーとラビの動きが止まる。
「‥そうじゃなくて、、、ミランダさん、僕の事‥」
慌ててアレンが手を振るが
「すごいわ、アレン君。とっても素敵なお話になりそうね。わたしの時はかぼちゃと魔女だったけど、次のお仕事で使うの?」
「いえ‥私用‥」
「ボランティア?」
「同類相憐れむ。」
仕事時ですら群れないくせに、こういう時に現れ一言を挟む神田がスタスタと通り過ぎる。
「憐れむって‥どういうことかしら?」
「あ、、、不幸?って、、、ところかな?」
分らなくて聞くミランダに、リナリーは引き攣った笑みを浮かべた。
「憐れむとかボランティアじゃなくて、、、本心です‥」
がっくり項垂れたアレンに、邪魔しようかと思っていたラビはこっそり涙ぐんだ。
「お仕事抜きでも皆を喜ばせようとするなんて、アレン君は本当に優しいのね。わたしにもお手伝いできる事があれば、言って頂戴。」
胸を張るミランダに、アレンは額を押さえた。
「優しくしたいのはひとりだけです‥」
「え?何?アレン君、ごめんなさい。上手く聞き取れなかったからもう一度‥」
そこまで言ってミランダの顔色が変る。
「あっ、もしかしてわたしが手伝うと失敗するから‥そうよね、わたしが手伝ったりしたら喜ばせるどころか怒らせるに決まってる‥」
「ミ、ミランダさん?僕はそんな事言ってな‥」
「ごめんなさい、アレン君。わたし、お手伝いできないわ。遠くで見守ってるから〜」
ホーホと泣き笑いでスカートの裾を摘むとミランダは走り去った。
「あ〜、、、アレン?」
腫れ物を触るように、ミランダの消えた方角へ手を伸ばしたままのアレンをラビは見た。
「どうしてこうなるんだ‥」
ガクッと伸ばされた腕が垂れ、頭を抱えたアレンに
「文才がないからでしょ。」
正直なリナリーが止めを刺した。



2008/03/23 隠語

廊下の窓に手をかけて屈みこむ人影に、リナリーは足を止めた。
「ミランダ?」

「それで、大丈夫だったの?ミランダ‥」
落ち込んでいるときのミランダの、幽鬼漂う表情を思い出しジェリーは自分の両肩を抱いた。
”ミランダ”の名前に、向かい合って食事をしていたラビとアレンはもちろん、離れて蕎麦を啜っていた神田の背中も強張る。
「あ、それは大丈夫。ミランダ、身重だったみたい。」
がしゃんガシャンガチャンがちゃん
食堂のいたるところで食器の割れる音がハーモニーを奏でる。しかし食堂カウンターのリナリーとジェリーは自分達の話で気付かない。
「身重‥‥あぁ、そういう事!」
「そうなの。だから食事はあっさりめで血になる物をお願いしようと思って。貧血になると困るし。」



ラビとアレンは立ち上がり、食卓に両手を着いて肩を震わせている。神田と言えば固まったまま動かない。
「でも、大丈夫なの?ミランダは腰細いし。」

細い

「やだ、ジェリーたら、、、あ、でも痛みって腰の細さって関係あるの?」
「それは私では分らないわ。分る人に聞いてちょうだい。」
それを知っている人間  ‥  

視線が交錯する。

背後の男どもを他所に”そうよね〜、ごめん”、と笑ってリナリーは特別食を受け取り、食堂を出ようとした。
「リナリーっ」
「何?アレン君。」
「ミ‥‥‥ミランダは‥?」
「無理をしなければ大丈夫よ。」
「、、、っそのっ、相手は誰さ?」
「相手?なんの?」
リナリーが首を傾げる後ろに当のミランダが現れた。
「リナリーちゃん、あの」
「丁度良かったわ、ミランダ。今、できたところ‥」
二人の間を日本刀が割ってはいる。
「神田?」
「貴様、他人が命張ってる間に、どこの馬の骨に不埒な行為をされたんだ?自分の身ぐらい自分で守れ」
神田の血をかむような声に、刃の光に。ミランダが後ずさる。
「神田、気持ちは同じですがミランダに当たるのは筋違いです!」
六幻をイノセンスの宿る右手で掴むと、アレンは青い顔でミランダに笑いかけた。
「ミランダさん。心配は要りません。お腹の子は僕が責任もって引き取り‥」
「抜け駆けさ、アレン。ミランダ〜、赤ん坊はアレンが引き取るって言ってるから、ミランダは俺と‥」
「貴様等、恥を知れ!」
ぎゃいぎゃい騒ぐ3人を指差し、ミランダはリナリーを見た。リナリーは肩を竦めると、
「行きましょ。冷えるとお腹が痛くなっちゃう。」
ミランダの手を引いて食堂を後にした。

「黒の教団内部でありえない誤解する方もする方だけど‥リナリーちゃん、誤解は解いていって欲しかったわ。」
「いんや〜、ありえるかも。可能性がある限り疑わないとね。」
「絶対無いわね。でなきゃあなたがリナリーの為に特別室を作ってるはずだもの。」
どこから嗅ぎつけたのか、あるいはそもそもリナリーに入れ知恵したのか。騒動を尻目にカウンターまで来たコムイは、珍しく銘柄を指定してジェリーにコーヒーを頼んだ。
「いや〜、今日は香りが引き立つよね〜。」
満足げなコムイにエプロンを預けると、食堂の後片付けを思い、ジェリーはお玉とフライパンをもって暴れる3人の下へと歩いていった。
子がいる=腹痛 身重=体が重い事(笑)



2008/02/12 彼氏の気持ちより同士に共感

食堂
「なかなか上手くイノセンスが使えなくて‥適合率っていうのが‥」
「そんな事無いわ、ミランダ。適合率で言ったら私だって‥」
励ますつもりのリナリーが落ち込み、ラビは二人を見比べた。
「ミランダの適合率がおっ付かないのは、後ろ向きだからじゃないさ?」
巻き戻しの街でアレンを助けようと思うまで、発動しなかった事を指してアドバイスしたつもりのラビだったが、ミランダのネガティブは更に上で。
暗雲たれまくりで湿度測定不可なミランダに、通りすがりの神田が
「鬱陶しい!」
とラビの頭上に鉄拳を落として去っていった。
「あ〜、、、、アレンはクロス元帥になんて習った?」
神田に文句を言おうにも、目の前の暗さにラビはアレンへと助けを求めた。
「習うなんて‥師匠が僕に教えてくれたのは」
そこまで言ってアレンは期待に満ちた目を向けるミランダに気付いた。
「し、師匠の話はしたくありません。」
「そんな事言うなよ、アレ〜ン。」
「絶対嫌です!」
「アレン君、クロス元帥にはトラウマがいっぱいだったわね。」
「ほら、ミランダも頼むさ。」
ラビに言われてミランダも、コクコク首を振った。
「アレン君。教えてくれる?」
「ミランダさんの頼みでも、これだけはダメです。」
「アレン君。」
「こ、これだけは‥」
「アレン君‥」
「ダメ‥‥‥」
ミランダの縋る眼差しは、アレンには守ってあげたい、一般には鬱陶しくて何とかしたい様相で。
暗雲vs冷や汗滝汗に遠巻きのギャラリー。
しかし、予想に反し折れたのはミランダだった。
「そうよね。他人に頼ってはダメ。自分でなんとかしなきゃね。」
作り笑いでミランダが微笑むと更に湿度が増すようで、後ろで除湿機だの除湿剤だの教団員が走り回る中、ミランダはトボトボと立ち去った。
「アレン君!?」
「アレ〜ン?」
「      」
リナリーはアレンの様子に息をつくと、肘枕を付いた。
「固まってるなら話せばいいじゃない!?」
他人、他人て‥ミランダさん‥
「泣いてる場合じゃないさ?」
「だってっ、、、、もし話して、ミランダさんも他の女の人みたいになったらっ」
「?、クロス元帥が博打好きで借金王な話し、、、じゃないさ?」
「その話をすると何故か女の人はみんな師匠の味方になるんです!」
バンっと机を叩いたアレンに、ラビは助けを求めてリナリーを見た。
「そうねぇ〜、そういう話だったけど‥女の人受けは良かったわね。」
「そんなもん?」
ラビもそう思うでしょ?可笑しいですよね!
腑に落ちない顔のラビの胸倉を、アレンは引っ張りあげた。
「落ち着け、アレン、、、そだ、リナリーはその話を聞いてもなんともなかったさ?」
「特には‥」
リナリーの返事を受けて振り仰いだラビに、アレンは手を離した。
「リナリーは特例‥」
それって、どういう意味?
「「ダークブーツはしまって下さい。」」
ハモる男二人の前からおみ足をしまうと、リナリーは着席して二人を睨みつけた。
ラビに小突かれて、アレンは口を開く。
「だって、、、今まで師匠の話をして靡かなかった女性はリナリーだけですよ?」
「それは特例と言われても仕方な‥」
リナリーと眼が合って、ラビは語尾を濁した。
「ミランダだって、大丈夫かもしれないじゃない。」
「大丈夫じゃなかったらどうするんですっ」
知るか、というかわりにリナリーは立ち上がり
「他人なだけでしょ?」
と言い捨てて行ってしまった。
「アレン?生きてるさ?」
どーしよラビ
「わ〜、落ち着け、アレン。先ずは鼻を拭いて!」
ティッシュでチ〜ンとしてやると、ラビはゴミ箱に捨てて手を洗った。
「アレン、お前ね‥」
「ラビ、、、僕、やっぱりあんな顔、ミランダさんにさせて置けません。話してきます。」
「はいはい‥だったら最初から‥」
「何です?」
「な〜んも?あ、そうだ。もしミランダさんがクロス元帥ファンになったらどうするさ?」
今までのお返しとばかりにラビがにやりと笑うと、アレンは明るく笑った。
「師匠に死んでもらいましょう。」
「‥アレンってさ‥」
「ん?」
「いんや、、、なんでもないさ。」
ミランダの部屋
「そうだったの‥苦労したのね、アレン君。」
「ミランダさん‥その、、、師匠をどう思う‥」
「クロス元帥の事は分からないけど、わたし、頑張るから!アレン君も苦しい時は言ってね。わたしにできる事ならお手伝いするわ。」
「ミランダ、、、さん‥」
「アレン君?‥!、どうし‥」
いきなり抱き締められてミランダは一瞬体を強張らせたものの、震えるアレンに気付いて細い背を優しく撫でた。
「な〜に感動してんだか‥」
扉の隙間から見ていたその様子をほほえましげに笑うと、ラビは背を向けた。
「でもまぁ、ひとまずクロス元帥の無事は保障されたさ。けどな、アレン。他人ってのは確かな縁こそ無いけど、恋人にだってなれる立場なんだぜ?」
ま、それは俺が証明するさ
ラビの独り言は暗い教団内に消えていった。



2008/01/27 は教団にをする

リナリーの覚えていないあの惨劇を、生者に語る意味などは無い
だが、死に行く者には知らし召すのだ。我が思いを!

あの日、両親はアクマに殺された。
正しいが、間違ってもいる言葉。

どうしてかって?
では聞き返そう。何故アクマは僕らの町に現れたのだ?
何故、リナリーが適合者と分ったのだ?
どうして、リナリーは適合者であらねばならないのだ?

街でアクマに遭遇し、母を庇って父はウィルスに感染し、黒く霧散した。母は半狂乱で
半狂乱で祈ってしまった。そう、千年伯爵に言われるまま。
アクマとなった父に母は殺された。

だが、母は幸せだったのだ。アクマとなった父は決して母をなじらず、母も父からの死を受け入れた。
反対に、僕等はどうだ?生き残った僕等は?
リナリーは適合者という理由で連れて行かれた。
一人残った僕は?
だが黒の教団はリナリーが言う事を聞かないと、見向きもし無かった僕を教団に誘った。
僕と、リナリーの気持ちは?
気持ちを殺す。コレは殺人ではないのか?
アクマの、アレが殺人≠ネのか?

教団に入る。奥深く、光の届かないところまで
今日からここがホーム。
【今日からここがお家だよ。兄さんも一緒に住むから。】
家の言う名の牢獄。
『遅くなってゴメンね。でも必ず、兄さんがここから出してあげるよ。』
イノセンスに光の影、漆黒の中から壊してあげよう、我等の愛しきホームを。
【教団がホームと思えるようになったわ。だから家族の為に闘うの。】
『そうだね、リナリー。愛と錯覚するほどの憎しみで、僕もここを壊すよ。そして‥』

そして黒の教団に栄光あれ!

「‥‥恐い話ですね。」
「でも、夢だったさ?」
「ええ‥わたしもどうしてそんな夢を見たのか‥」
ラビとアレン、ミランダにリナリー。3人はコムイ室長に用事で呼ばれ、迷ったミランダにリナいーが付き添いでやってきた研究室。しかし呼んだ本人がなにやら機械に埋もれていて、仕方なくアレン達はお茶を用意して科学班研究室の隅っこでだべっていたのだが、時間潰しにふったミランダの見たという夢の話でラビとアレンはこっそり背筋を振るわせた。
「夢か‥でもミランダさん、鋭いですよ。」
「でも、ミランダ‥兄さんの夢を見るなんて、兄さんが好きなの?」
夢の内容よりも、夢を見たことが気になるリナリーは現実派である。
「「それはダメ〜っ」」
五月蝿いっ、出てけーっ


「あれ〜、アレン君達は?」
「さっき室長が追い出したじゃないですか。」
「え〜、そんな事したかなぁ〜?」
「ぶりっ子しても駄目っす。って‥室長?何してるんスか、さっきから‥!その手にあるのは!!」
「も・ち・ろ・んコムリン2.025のリモコンさ。」
「コンマ025ですかーっ?」
ぽちっと」
押すなーっ
再び、教団は危機に見舞われた。

「室長‥教団を破壊してるよな‥」
コムリン0.025〜、そんな事しちゃダメ〜っ
安全地帯に隠れながら、後方で叫ぶコムイの声をBGMに科学班は膝を抱えた。
「とりあえず、何とかしないとなぁ。」
あ〜、ダメだよ。コムリン0.025を壊しちゃっ。
僕等は壊れても良いんですかーっ。
あ、そうしたら直して‥いや、治してあげるから
何故ハートマーク〜っ
「なんでコムリンを創るんだろ‥」
「ミランダの見た破壊の理由?」
コムリンは僕のっ、僕の希望‥あ〜、リナリー止めて〜。壊さないで〜。お兄ちゃん泣いちゃう。コムリン0.025〜
「コムリンが希望?」
「夢の理由方がいい。」



2008/01/22 ホントはシリアス書きたいです。だからもっと色々な人と(笑)絡ませて(切望)

「ラビに言わせると、僕はアンラッキーボーイなんです。」
「アンラッキー‥ボーイ?」
「不幸体質って、笑っちゃいますよね。」
アレンは笑って頭をかいた。
「そんな‥」
否定しようと身を乗り出したミランダの手を、アレンは握った。
「まぁ、あんまり嬉しくはなかったんですけど‥ミランダさんも不幸だって言ってたから、、、同じならいいかな〜って」
「アレン君‥」
「僕達、似た者同士ですね。絶対相性が良い‥」
「同族嫌悪って言葉もあるさ?ここ、空いてる?」
ギッっと睨まれても知らぬ顔で、ラビはアレンの横へ腰を下ろした
「空いてるなんて言ってませんよ。」
「ミランダが頷いたさ。な、ミランダ!?」
「って、なに手を握ってるんです。」
「アレンだってさっきまで握ってたさ。」
「僕は!ミランダさんと、大事な話をしてたんですッ。」
「食堂で大事な話だったさ?」

食堂。
そこは黒の教団員が生きていると実感できる時間を過ごす、つまり食事をする場所である。
生きているからこそ食事はできるのだ。ゆえに食堂は生気の喧騒に満ちている。
そして
ロマンスやプライベート‥いやプライベートについては一部、他人がそのまわりに近寄らないという例外もあるが‥とは普通は無縁な場所である。
普通の神経なら、机いっぱい並べられた皿の前では

頷く期待に満ちたアレンと否定を期待しながらアレンの皿をつまみ食いして手を叩かれているラビを交互に見、聞かれてミランダは他席へ視線を彷徨わせ顔を伏せた。
「その、、、、不幸‥体質っていうか、、、不幸が団体で来ちゃうって言うか‥あ、でもアレン君はわたしと違って立派に活躍して‥わたしは、自分が役立たずだから、、、」
「類(が群れてた、ただのか。」
普段無口なくせにこういう場合は逃さない、食堂でプライベートを確保できる日本青年がぼそりと呟いて通り過ぎた。



2008/01/21 

時の破壊者、アレン・ウォーカー
「だったら僕はミランダさん(刻盤)を壊すものです。」
未成年レッドカードぉッ!!!


                         それからどうした!?

「おかしいなぁ。父子家庭に育つと女ッ気がないせいか、女性を神聖視する傾向があるんだが‥」
「アレンの場合、女ッ気が無かったわけじゃないんじゃないですかぁ?師匠がクロス元帥ですし。」
「‥‥‥だな。」
研究室に戻った科学班の面々はずーっとコーヒーを啜った。
「そのてん、ラビは均等に伸びていて普通の青少年だよなぁ。」
この普通≠ェ黒の教団内部での評価という点を忘れているあたり、彼等ももういっちゃっている。
「じゃあさ、神田は?神田も男所帯で修行したんだろ?」
アレンやラビと同年代の一人、黒髪に異邦人を全員が思い浮かべる。
「あ〜、彼は純情そうだよね。」
「威勢の割にはね。」
「異性に夢持っちゃってるよ、絶対。」
「でも、リナリーには普通じゃないか?」
リーバー班長の意見はこの中ではまともな方だ。
〜っ、神田君、リナリーにをーぉ
「ち、違います。室長、落ち着いて。リナリーを神聖視してないっていう‥」
リナリーを可愛くないとでぉーっ
「そうじゃないからっ、そのへんてこな機械しまってぇ〜
「うん。確かにリナリーは可愛いけど、大切に考えているからはっきり言っちゃう事もあるからね。長髪がヘンだとか、人相悪いとか、年長者には礼をつくせとか」
いきなりまともな顔でコムイは頷いた。
「まともモードの途中から、私情入ってません?」
「リナリーはお利口さんだから、神田君に無駄な夢を見させる前に、現実を教えてあげたんだね。」
リナリー人形なんていつの間に?というぬいぐるみにコムイはすりすりした。
『『『『『疲れる〜』』』』
「コホン、とにかく!仕事しよう。山積みだ。」
5分経過
「しかし神田君が新たに入ってきたミランダには期待しているとなると‥」
コムイの呟きに科学班の全員がガバッと顔を上げる。
「え?続いてるの?」
「当たり前じゃないかぁ〜、こんな面白い‥じゃない、神田君も人の子だという証明だ。」
「っていうか、切れやすいあたり、充分人の子だと‥聞いてませんね‥」
コムイは机の上に立つと、両手を後ろ手に組んだ。
「リナリーのような可愛さではないが、ミランダは抜けていて、必要以上に手がかかって、しかもナイチンゲールのように後方で看護を行うようなイノセンス。男の手を差し伸べたくなるロマンス条件は揃っている。ここはひとつ、神田君に大人への第一歩を」
抜刀、赤紙招来ー


                                   そんでどした?

「もぅ、いい加減にしないと知らないわよ?兄さん。」
神田が、神田がぁと泣いて縋るコムイを無視し、リナリーは破壊された研究室の後片付け(主にリナリー人形の回)を手際よく行った。
「でも、否定はしなかったのね、神田‥」
「「「「「‥え?」」」」」
不穏な音色(お伝えできなくて残念です)を書き残したまま、日誌当番逃走。

終劇(笑)



2008/01/16 大人のカップめん「かりおすとろの塩」

「アレンぐらいの年頃はさ〜、そういう事に敏感なの。特に年上のお姉さまでナースみたく介抱とかされたら‥」
天に昇っちゃうさ
ラビは指を組むと胸に当てた。
「貴様は今でもそのようだな。」
忌々しそうに言う神田に、ラビは健全な青年なら女性に関心もって当然さ≠ニ胸を張った。
「馬鹿か。」
「ラビがバカかは置いといて、僕を子供扱いするのは止めてもらえませんか。」
「俺はバカじゃないさ〜。」
「ガキは大人しくしてろッ。」
男二人の二重奏に、アレンは眉を寄せると
「僕は青春の幻影を見ているわけでも、恋に恋する少女でもありません。マナーを守っているだけで、なんなら今晩にでも本気の証明を‥」
「抜刀‥」
「伸ッ」

「も〜、どうして大人しくできないのかしら。仲良くしろとまでは言ってないでしょ。今回の原因は?」
後片付けに手を貸してくれるリナリーの文句に反論はできず、神田とラビは顔を逸らした。
「アレン君?」
「つまり神田もラビも、夜這いできない子供だって事です。」
「?何ができないって?」
「大人って事でしょうか。」
「アレン君はできるの?」
「できますよ。それぐらい真剣なので。」
誤魔化すようなアレンの笑みに、リナリーは瞬きすると、
「そう。」
とだけ答えた。
「お茶でも淹れてくるわ。一休みしましょう。」
「はい。」
「賛成さ〜」
背を向けたリナリーは2〜3歩あるいて思い出したように振り返った。
「あ、ミランダの部屋は鍵が10個とセコム、入ってて、3分で解除できないとホームに隠されてる落とし穴から地下牢へ落ちる仕掛けがしてあるから。」
「そんなのッ‥ミランダさんはどうやって入るんですか?」
「私と一緒によ。言ってなかった?私、ミランダと相部屋なの。」
最強の壁に、アレンの脱、子供宣言は打ち砕かれた。

目指せ大人なアレン‥大人発言がオヤジ発言なような(爆)



2008/01/15 マナ贔屓

食堂は教団の中で特に家族香る場所。普段会わない人とも顔を付き合わせ、他愛の無い話に興じたり‥
「リナリーは〜、コムイ好きさ?」
「兄さん?当たり前でしょ。兄さんは私の為に、私は兄さんの為に闘っているんだから。」
今日のリナリーは、海老とホタテの海鮮粥に春餅とジャスミン茶。斜め前に座るラビは、バウアースシュマウスにミネストローネ、・オマール海老のアロスでデザートは無い。
そしてラビの隣・リナリーの正面のアレンは、シェパーズパイ・ローストビーフ・フィッシュ&チップス・アップル・クランブル‥まで頼んでからリナリーとラビとミランダの食事を追加し、会話に視線だけ向けるものの、顔は食事に向かいそれを残すところ無くたいらげていた。
「じゃさ、ミランダは?ミランダとコムイ、どっちが好きさ?」
リナリーではなく、アレンの手が止まる。くわえていたフィッシュを飲み込むと、アレンはリナリーを見た。
「どっちもよ。比べられないわ。」
リナリーの横ではミランダが格闘していたソーセージ&マッシュをデザートのアップルシュテュルーデルの皿に飛ばしていた。自分の名が出たので顔を上げたが、内容を反芻して曖昧に笑った。
「アレン君もそうでしょ?お義父さんとミランダ。」
アレンが、珍しく食事を中断して顔を上げる。
「はい。マナは‥幼い僕にとっては全てでした。マナがいれば、それで良かった。生活は貧しかったし、大道芸は厳しかったけど‥それでも。‥今だからこそかもしれませんが‥」
「リナリーと同じ?」
行儀悪く、ラビはソーセージの刺さったフォークを持ったまま念を押す。
「え‥ええ‥そうです‥けど?」
何故念を押されるのか。今までの経験がアレンの頭で警鐘を鳴らす。
「嬉しいわ。家族と認めてくれて。」
ミランダに言われて、しまったとアレンは顔を顰めた。ラビを睨んでも、口笛を吹いてそ知らぬ顔を決めていいる。
「あら、家族愛とも限らないんじゃない?」
リナリーは箸をおくと口元を拭いた。
「リナリーちゃん?」
「家族愛じゃなかったら‥なに、さ?」
聞きたいような聞きたくないような‥
ラビの顔にいやな汗が吹き出、
「光源氏と藤壺。」
通りすがりに神田が言い捨てると、ありとあらゆる書物を読みたいと思っているラビの、汗がいく筋もの滝となった。
アレ〜ンっ」
「なんですか?ラビ‥」
ガシッとラビに手を取られ、アレンは仰け反る。
嘘だと言ってくれ〜ッ
だから、何をですか〜
泣きたいのはこっちだとアレンは思った。
後日、源氏物語を知ったアレンが、ミランダが読まないよう奔走したのは言うまでもない。

いえ‥マナさんも好きなもので‥あ、投石はやめて下さい(汗)



2008/01/14 黒なヒト

「あ〜、ミランダ。ちょっといいかい?」
「コムイさん?なにか‥はっ、わたし、また何か失敗でもぉ?」
「あ〜いやいや、、、そうじゃなくて‥」
ムンク状態のミランダに軽く手を振ると、軽いモードからまじモードに切り替えコムイは右手で眼鏡を直した。
「実は、アレン君のことなんだけどね。」
「アレン君?」
「そう。アレン君。彼は‥」

腹、黒いから

不安そうに見上げるミランダの肩を掴むと、コムイはテンション高くのたまった。
「腹黒い?」
「そ。これはリナリーもラビ君も確認している事なんだ。」
再びまじモードでコムイは付け加えた。

だから、気をつけてね


「ミランダ‥」
「リナリーちゃん?」
呼び止められるほどの内容だったのかと首をかしげていたミランダは、柱の影で呼ぶリナリーに気付き側に寄った。
「兄さんに何か言われた?」
「え、ええ‥アレン君が‥腹黒いって‥」
「やっぱり‥ラビと話した後、嬉々として私に聞きに来たから‥」
「リナリーちゃん?そんな困った顔しないで。わたし、アレン君がレッサーパンダでも全然気にしないわ。」
「れ‥レッサーパっ、、ぁ?」
「あぁいえ、、、本当にレッサーパンダって言うわけじゃないのは分っているのよ。でもほら、レッサーパンダって立ち上がるとお腹が黒くてレッサーパンダに見えないじゃない?」
「あ、あぁ‥そういう意味にとったんだ‥」
「でも以外ね。か細そうに見えてアレン君、腹毛があるのね。」
「ホント、アレン君は食欲の割りに細い‥え?腹毛?」
「ええ。腹下が黒いんでしょ?それとも、皮膚に黒痣でも?」
「あ‥あぁ、皮膚は、、、、別に。」
言いよどんだリナリーに、ミランダは慈愛の瞳を向けた。
「アレン君の容姿じゃ、お腹に毛があるなんて想像したくないけど‥あと何年かしてもっとたくましい大人になれば、きっと似合うわ。大丈夫。」
「いえ、私はっ、、、別に‥」
「まぁ、わたしもびっくりだけど‥そういうお腹を見たこと無いけど、きっと大丈夫よ。手足の毛がお腹に‥うん、日に焼けてれば‥あ、でも、もじゃもじゃは‥ううん、そんな事気にしちゃいけないわ。わたしなんて不幸な顔してるんだもの。」
自分に言い聞かせるようにミランダは言うと、リナリーにガッツポーズを決めて部屋へと戻っていった。
「‥アレン‥その、、、どこ突っ込んだらいいさ?」
円形の建物は隠れる柱がたくさんあって。ラビはミランダをやり過ごすと、隣の柱に隠れているアレンに慈愛の顔を向けた。
「やはりモヤシと思われていたな。」
鼻で笑うと、アレンを挟んでラビと反対側に隠れていた神田はスタスタと立ち去った。
「や、、、それはこれからたくましくなる‥かもってミランダも‥?」
「‥‥‥」
「あ〜、、、、アレン?」
「‥‥腹黒くて済みませんね。」
「ああ、、、、か細いは認めてるんだ
失言とばかりに顔を押さえたラビのアピールに、アレンは冷ややかに
「何か?」
でも逃さず対する。
「あ〜ゴホゴホ、、ン、‥ほら、ミランダは腹黒いって思わなかったわけだし?」
「おかげで腹毛がある事になりましたが?しかも、黒い‥」
「あ、レッサーパンダって知ってるさ?こう背中が茶色で哺乳類には珍しく腹が黒‥」
「絵なんて描いてもらわなくても結構です。」
左手を押付けられ、ラビは隠れていた柱から転がり出た。
「アレン、ヒドイさ。」
「腹黒ですから。それに、か細い僕の腕力なんてたかが知れてるでしょ。」
『やっぱ、そっちも気にしてるさ‥』
アレンは転がるラビを踏みつけると、トレーニングするべく階下へと降りていった。
そして
ラビとアレンからの死角で神田は立ち止まると、そっとシャツのボタンを1個外し、上から自分の腹を見下ろした。

教団日誌